金メッキ製品をX線分析すると、表面から金(Au)が検出されます。
しかし、同じように金が検出された品物でも、ごく薄い金メッキが施されたものと、十分な厚さの金メッキが施されたものでは、品物の構造がまったく異なります。
成分分析で「金が含まれている」ことが確認できても、「金の層がどのくらいの厚さで存在しているか」は、成分の数値だけでは判断できないことがありました。
成分として金が検出されることと、金がどの程度の厚さで存在しているかは、別の情報です。
にじや質店X線ラボでは、島津製作所のエネルギー分散型蛍光X線分析装置「EDX-7200」を導入しています。

EDX-7200は、成分分析に加えて、薄膜FP法によるメッキの付着量・膜厚分析にも対応しています。ただし、未知の品物をX線で測るだけで、メッキの材質や層数まで自動的に判定できるわけではありません。
この記事では、実際の金メッキ製品を用いた分析例をもとに、層構造をどのように確認して分析条件へ設定するのか、膜厚分析で何が分かるのか、測定時にどのような制約があるのかを解説します。
表面から同じ金が検出されても、メッキの構造は同じとは限らない
X線による成分分析では、測定箇所の主に表面付近に存在する元素と、その含有割合を確認できます。
同じように表面から金が検出されても、通常の成分分析の数値だけから、メッキの厚さを求めることはできません。
とくに厚い金メッキが施された品物では、表面付近の分析で金が高い割合で検出され、無垢材との区別に追加の情報が必要になる場合があります。
メッキの厚さは、品物の構造だけでなく、品質や耐久性を検討するための判断材料の一つになります。
薄いメッキと厚いメッキ、あるいは無垢材を区別するためには、成分とは別に「層の厚さ」という情報が必要です。
当ラボでは、従来のSPECTRO SCOUTによる成分分析で、表面の成分をもとにメッキか無垢材かを検討していましたが、メッキの厚さを数値として示すことはできませんでした。
EDX-7200の導入により、基材と各メッキ層の材質・層数・順序を確認して分析条件へ設定することで、各層の付着量を求め、密度から膜厚へ換算できるようになりました。
X線分析装置EDX-7200導入で分析対象が拡大|当ラボの分析で変わったこと・変わらないこと
2026年6月、にじや質店X線ラボに島津製作所の蛍光X線分析装置「EDX-7200」が加わりました。従来から稼働しているSPECTRO SCOUTとの2台体制です。 この記事では「X線分析って何が分かるの?」という基本か […]

EDX-7200の膜厚分析では何が分かる?
蛍光X線分析では、試料にX線を照射し、発生した蛍光X線のエネルギーと強度を測定します。
通常の成分分析では、蛍光X線のエネルギーから元素を特定し、その強度などをもとに含有割合を算出します。
一方、膜厚分析では「薄膜FP法(ファンダメンタルパラメータ法)」を用い、メッキ層からの蛍光X線強度をもとに付着量を算出し、メッキ層の密度を用いて膜厚へ換算します。
薄膜FP法では、基材と各メッキ層の材質、層数、表面からの順序を分析条件として設定する必要があります。未知の品物を未加工のまま測定しても、層構造を自動的に確定することはできません。
メーカー仕様書などで層構造が明らかな場合は、その情報をもとに分析条件を設定できます。一方、層構造が不明な品物では、目立ちにくい箇所をヤスリで少しずつ削り、その都度成分分析を行って、表面層、中間層、基材を順番に確認します。この事前確認は破壊を伴います。
層構造を確定した後は、ヤスリを当てていない別の箇所を測定し、薄膜FP法で各層の付着量を算出します。膜厚は、付着量を設定した材質の密度で換算して求めます。したがって、最終的な膜厚測定そのものは未加工箇所で行えますが、未知試料の層構造を確定する工程は完全非破壊ではありません。
多層メッキの計算にも対応しますが、正しい層構造を設定することが前提です。設定した材質、層数、順序、密度が実物と異なる場合、算出される付着量や膜厚も正しく評価できません。
金メッキ製品を段階的に確認した実例
今回、緑色石を取り付けた金色のペンダントトップを試料として、EDX-7200による金メッキ分析を行いました。外観だけでは、表面の金色層の下に何層あり、基材が何であるかは確定できません。


ヤスリで少しずつ削りながら測定した結果、表面から順に、金(Au)層、ニッケル(Ni)層、銅63.6%・亜鉛36.4%の真鍮基材という3段階の構造であることを確認しました。この結果をもとに、薄膜FP法の分析条件を「Au/Ni/Cu-Zn基材」として設定しました。


| 構造 | 設定材質 | 付着量 | 密度換算した参考膜厚 |
| 第1層 | Au 100% | 57.575 μg/cm² | 約0.030 μm |
| 第2層 | Ni 100% | 4,124.019 μg/cm² | 約4.63 μm |
| 基材 | Cu 63.6%/Zn 36.4% | ― | ― |
※参考膜厚は、Auの密度を19.32 g/cm³、Niの密度を8.90 g/cm³として付着量から換算した概算値です。EDX-7200の出力値は付着量であり、膜厚換算値は設定した組成・密度を前提とします。
この実例により、通常の成分分析だけでは具体化できなかった『金層の下にニッケル層があり、その下が真鍮基材である』という構造と、各メッキ層の付着量を数値で示すことができました。

膜厚を測ることで、どのような判断に役立つのか
■品質管理・受入検査
発注したメッキ仕様と、納入品の膜厚に大きな違いがないかを確認する場面があります。
ロット間の差や、同じ品物の部位による厚さの違いを調べる際にも、膜厚のデータは判断材料になります。
加工条件の変更前後でメッキ厚に差が出ていないか、変色や剥離が起きた品物のメッキ厚が仕様を下回っていないかといった、原因調査にも活用できます。
ただし、X線による測定結果だけで、製品全体が規格や契約仕様に適合していると保証するものではありません。
■アクセサリーの表示・品質確認
「厚メッキ仕様」として仕入れた商品の確認や、海外製品・OEM製品の受入時に抜き取りで膜厚を確認する用途があります。
商品説明や仕入れ先の資料に記載されたメッキ仕様と、実際の層構成を照合するための判断材料になります。
アクセサリー販売業者向け|X線分析報告書の活用方法
ハンドメイドアクセサリーの作家さまや、輸入アクセサリーを扱う小売業者さま、ニッケルフリー商品を販売されている事業者さまにとって、商品の素材を客観的に確認できることは、安心して商品を届けるうえで欠かせないポイントです。 「 […]
■個人が所有する品物の素材確認
成分分析で表面から強く金が検出された品物について、その金がどの程度の厚さで存在しているかを確認するための追加情報になります。
ただし、層構造が不明な品物では、事前確認のため目立ちにくい箇所を削る必要があります。完全非破壊を希望する品物については、メーカー仕様書などで基材・各層の材質・層順序が既知であることが必要です。
ただし、膜厚の値がそのまま売却価格に直結するわけではありません。
膜厚分析の結果は、あくまで品物の構造を理解するための追加情報として位置づけてください。
膜厚分析には測定条件と制約がある
膜厚分析の測定結果は、X線を照射した箇所の膜厚を示すものです。一か所の測定結果だけで、品物全体のメッキが均一な厚さであるとは断定できません。
摩耗しやすい部分と触れにくい部分では、実際の厚さが異なる可能性があります。

また、曲面や凹凸のある形状、測定面が狭い品物などは、測定条件に影響が出る場合があります。
膜と下地に使われている元素の組み合わせによっても、分析のしやすさが変わります。
蛍光X線のエネルギーが近い元素の組み合わせでは、ピークが重なり、分離が難しくなることがあります。
多層構造を測る場合は、基材、各層の材質、層数、表面からの順序を確定して分析条件へ設定します。資料で確認できない場合は、ヤスリによる段階的な削り分析を行います。
必要に応じて複数箇所を測定し、外観・刻印・成分分析の結果なども併せて、総合的に判断することが大切です。
なお、2026年8月に導入予定のハンドヘルド型蛍光X線分析計「Vanta Core V2CA」は、現場や大型試料での元素分析・スクリーニングを補完する装置です。
本記事で説明する薄膜FP法による膜厚分析は、EDX-7200で行います。
島津製作所 フラグシップ X線分析装置 EDX-7200導入および膜厚分析体制強化のお知らせ
にじや質店X線ラボは、分析精度および評価信頼性向上のため、島津製作所製 エネルギー分散型蛍光X線分析装置「EDX-7200」 の導入を決定しました。 本装置は東京都により承認された経営革新計画(7産労商支第1908号)か […]
成分だけでなく「厚さ」を確認したい方へ
メッキの層構造と各層の厚さを確認したい方は、にじや質店X線ラボへご相談ください。
膜厚分析は事前相談制です。層構造が不明な品物では、目立ちにくい箇所をヤスリで削る事前確認が必要となるため、依頼者の承諾を得たうえで実施します。
完全非破壊を希望する場合は、基材・各層の材質・層数・順序が分かる仕様書等をご提示ください。企業・個人のどちらからも受け付けていますが、測定可否と料金は品物ごとにご案内します。
品物の材質や想定するメッキ構成、確認したい内容をお知らせいただくと、相談がスムーズです。
完全予約制X線分析サービスを開始しました
にじや質店X線ラボでは、新たに「完全予約制X線分析サービス」を開始いたしました。 お客様立会のもと、目の前でX線分析を行うサービスです。 金貨・インゴット・貴金属・コレクション品等について、その場で分析をご確認いただけま […]
投稿者プロフィール

-
にじや質店X線ラボ 分析担当
株式会社クリエイティブファクトリー代表取締役。
にじや質店X線ラボにて、蛍光X線分析(XRF)を中心とした非破壊分析に取り組んでいます。
金・銀・プラチナなどの貴金属をはじめ、アクセサリー、金貨、地金、各種金属製品について、X線分析による元素組成・品位・材質の確認を行っています。
「見た目や刻印だけでは分からないものを、分析データで確認する。」
質屋・鑑定の実務経験と、X線分析・導電率測定・超音波測定・比重測定・顕微鏡観察などを組み合わせ、分析対象や目的に応じた評価に取り組んでいます。
なお、X線分析は試料表面付近の元素組成を調べる分析方法であり、分析結果だけですべての真贋や内部構造を断定できるものではありません。測定結果と各種情報を総合して評価することを重視しています。
■所属
・株式会社クリエイティブファクトリー 代表取締役
・にじや質店 代表鑑定士
・にじや質店X線ラボ 分析担当
■保有資格
・第一級陸上無線技術士
・電気主任技術者
・電気通信主任技術者
■経歴
1991年 株式会社リクルート入社
1994年 都内特許事務所にて特許出願業務に従事
1998年 創業、真空管輸入販売事業を開始
2000年 法人化
2013年 株式会社クリエイティブファクトリー設立
2014年 総合買取事業開始
2022年 にじや質店開業
2025年 にじや質店X線ラボ サービス開始
2026年 にじや相続評価 サービス開始
2026年 にじや分析ラボ開設
■専門・分析分野
・蛍光X線分析(XRF)
・金・銀・プラチナ等の貴金属分析
・金製品・金貨等の品位確認
・アクセサリー・金属製品の材質評価
・導電率測定
・超音波厚さ測定
・比重測定
・顕微鏡観察
・分析データを用いた真贋・材質評価
■主な分析・測定機器
・SPECTRO SCOUT
・島津製作所 EDX-7200
・VANTA Core V2CA
・SIGMASCOPE GOLD B/C
・超音波厚さ計 45MG
・比重計 GKS-3000
・実体顕微鏡/デジタルマイクロスコープ
■運営サイト
・にじや質店
https://nijiya-7ten.jp
・にじや質店X線ラボ
https://nijiya-xray.jp
・にじや分析ラボ
https://nijiya-lab.jp
・にじや相続評価
https://nijiya-souzoku.jp
・ヴィンテージサウンド
https://vintagesound.jp










