ロレックスやオメガなどの高級時計は、ブランド独自の名前を持つ特別な素材を使っていることが多く、ふつうのステンレスとは大きくちがう性質を持ちます。
「ロレックスのスチールは、ふつうのスチールと何がちがうのか」「コピー品との見分け方は」といった疑問をお持ちの方に向けて、本記事ではブランドごとの独自素材と、その確認方法について、わかりやすく解説いたします。

ロレックスのオイスタースチール(904L)とは
ロレックスが使っているステンレススチールは「オイスタースチール」と呼ばれていて、その正体は904Lというグレードのステンレスです。
SUS904Lとも書かれ、ロレックスは1980年代半ばから904Lを採用し、その後ステンレスモデルに広く使用するようになったとされています。
一般的に時計業界で広く使われている316Lというグレードと比べて、クロム、ニッケル、モリブデンの量がさらに多く、もともとは化学産業の分野で、酸に強いことが求められる用途で使われていた素材です。
904Lの特徴は、耐食性の高さと、磨き上げたときの美しい光沢です。
海水や酸性の環境のもとでもサビにくく、表面の光沢を長く保つ性質があるため、時計のケースとしてすぐれた性能を発揮します。
ただし、加工がきわめてむずかしく、製造のコストもかかるため、多くの時計メーカーは今でも316Lを使っています。
当時の時計業界では316Lが一般的だった中で、加工のむずかしい904Lを積極的に採用した点が、ロレックスの素材へのこだわりを表しています。
参考:ロレックス公式サイト
ロレックス独自のゴールド合金とロレゾール
ロレックスにはもう一つ、独自の素材として「エバーローズゴールド」があります。
これは18金をベースに、年月が経っても色があせるのを防ぐ工夫がされたピンクゴールドです。ふつうのピンクゴールドは銅の比率が高いため、長年使うと色味が変化することがあります。
ロレックスは正確な配合を公表していませんが、公式にはパラジウムやインジウムを加えることで色の安定性を実現していると説明しています。
ロレックスでは、ステンレスと18金を組み合わせた「ロレゾール」というコンビモデルも展開されています。
組み合わせる金の種類によって、イエローロレゾール、エバーローズロレゾール、ホワイトロレゾールと呼び分けられていて、ステンレスの丈夫さとゴールドの華やかさの両方を楽しめます。
ロレゾールは1930年代初頭からロレックスのモデルに使われ、1933年にその名称が商標として登録された、伝統ある素材の組み合わせです。
オメガなど他のブランドの独自素材
オメガにも独自のゴールド合金があります。
「セドナゴールド」は18金、銅、パラジウムの合金で、深みのあるピンクゴールドの色合いを長い期間にわたって保つことができる素材です。
また「ムーンシャインゴールド」はオメガのイエローゴールドで、銀色がかった、優しい黄色が特徴になります。
鑑定歴27年の鑑定士に聞く|高級時計の鑑定手順
ここからは、にじや質店X線ラボの鑑定士・佐々木(鑑定歴27年)が、お客様の高級時計を実際にどのような順序で確認しているのか、その手順をご紹介いたします。
X線分析は鑑定の最終段階に位置付けられる工程であり、それまでに目視やルーペでの確認をひと通り行ったうえで、必要に応じて使用する流れになります。
当店の鑑定6ステップ

- 手に取って、重さをチェックする
→ 極端に軽かったり、重かったりしたら要注意
- 軽く振ってみて、組み立て精度や自動巻きロータの回転をチェックする
→ 本物はカチッとしているが、模倣品はがたつきや変な隙間がある
→ 模倣品はロータの回転に偏心があったり、回転時に異音がする
- ルーペやデジタル顕微鏡で、文字盤や針をチェックする
→ 本物は細部に亘って、とにかく美しい
→ 模倣品は塗料がはみ出ていたり、針の先端がニッパでぶつ切りしたような感じであったり、汚い作り
- ルーペやデジタル顕微鏡で刻印をチェックする
- 刻印に違和感があれば、X線分析を実施する
- 針を回してみる
→ 引っ掛かりがあったり、スムーズさに欠ける場合には要注意
| 【裏蓋を開けない鑑定について】 裏蓋を開ければ、より高い精度で真贋鑑定ができますが、蓋が閉まらなくなる等のトラブルを避けるため、当店では裏蓋を開けない鑑定を標準としております。 |
こうした目視と感触での確認を積み重ねたうえで、なお素材面に違和感が残る場合に、X線分析装置による組成測定へと進みます。
次の項では、実際にX線分析で模倣品の素材が判別できた事例を、2件ご紹介いたします。
コピー品の素材を判別する方法と本物確認
これらのブランドならではの素材は、表記や刻印で見分けがつく場合と、そうでない場合があります。コピー品や模倣品の中には、「Rolex」「Oyster」などの刻印を似せていても、ケースの素材の組成が正規品と異なるものがあります。
素材を調べる装置で測定すると、表記や見た目と実際の成分が合わない可能性を確認する手がかりになります。
時計が本物かどうかを確認したい場合は、刻印、シリアル番号、機械(ムーブメント)といった複数の要素を、合わせて見る必要があります。
ケースの素材の成分分析も、その一部として役に立ちます。X線分析装置なら、ケースを傷つけずに、表面の組成を数値で確認できます。
なお、「X線分析で時計が壊れないか」とご心配される方もいらっしゃいますが、ご安心ください。
X線分析(蛍光X線分析)は、品物を傷つけずに表面の成分を調べる非破壊の検査です。電子基板や半導体の検査にも使われるほど繊細な対象に対応でき、機械式時計の機構を傷めることはなく、分析後に放射線が残ることもありません。
病院のレントゲン撮影で時計を外すのは、撮影部位に金属が写り込んで診断の妨げになるためで、X線そのものが時計を壊すわけではありません。パテックフィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマピゲといった他の高級時計ブランドも、それぞれ独自の金合金を使っています。
これらのブランドの時計を相続で受け取られた、または購入された方の中には、「素材の名前は知っているけれど、具体的に何の金属なのかは知らない」というケースが、少なからずあります。
高級時計のコピー品(スーパーコピー、レプリカ)は、年々精度を上げていて、見た目や刻印だけでは判断がむずかしいものもあります。こうしたコピー品であっても、ケース素材が904L系とされるモデルで組成が正規品の仕様と一致しない場合には、X線で分析することで、素材面の違和感を数値として見つけられることがあります。
X線分析で素材の違和感を発見した実例
ここでは、当店で実際にX線分析を行い、模倣品の素材が判別できた2つの事例をご紹介いたします。
【事例1】ロレックス エクスプローラI ― モリブデン含有量で判別
ロレックスのエクスプローラIは、ステンレスベルトを採用したスポーティーなモデルです。
本物と模倣品を並べて見比べてみると、外観のシルエット自体はよく似ています。

そこで、両方のSS(ステンレス)ベルトをX線分析装置にセットし、組成を測定いたしました。




注目すべき元素は「モリブデン(Mo)」です。
904L系の高耐食ステンレスは、316Lなど一般的なステンレスと比べてモリブデンの含有量が多いという特徴があります。
今回の測定結果を比較表にまとめました。

| 項目 | 本物(エクスプローラI) | 模倣品(エクスプローラI) |
| モリブデン(Mo) | 3.057% | 0.0444% |
| 鉄(Fe) | 62.33% | 68.71% |
| クロム(Cr) | 17.58% | 17.83% |
| ニッケル(Ni) | 14.23% | 8.56% |
| 評価 | 高耐食ステンレス(904L系の特徴) | 一般的なステンレス(粗悪) |
本物のモリブデン含有量3.057%に対し、模倣品はわずか0.0444%。
この差は実に約70倍であり、模倣品が904L系の高耐食ステンレスではなく、より安価な一般的なステンレス(あるいはそれ以下の粗悪なステンレス)でつくられている可能性が、数値として明確に示されています。
見た目だけでは判別がむずかしいモデルでも、モリブデン含有量という一つの指標から、素材面の違和感を客観的に捉えることができます。
【事例2】ロレックス オイスターパーペチュアル コンビ ― 金メッキの判別
もう一つの事例は、ロレックスのコンビモデル(ステンレス+金のロレゾール仕様)の模倣品です。本物のコンビモデルは、SS素材とK18素材(金含有量75%)を組み合わせた構造になっています。
一方、今回お持ち込みいただいた個体は、SSベルトと金色のベルトで構成されており、外観上はコンビモデルの特徴を備えていました。


SSベルト部分と金色ベルト部分の、それぞれをX線分析いたしました。


結果は、外観の印象を大きく裏切るものでした。

| 測定箇所 | 本物の仕様 | 模倣品の測定値 |
| SSベルト(モリブデン) | 904L系ステンレス(豊富) | 0.0775%(極めて少ない) |
| 金色ベルト(金 Au) | K18(金含有量75%) | 0.693%(金メッキ) |
| 判定 | SS+K18のコンビ | 粗悪ステンレス+金メッキ |
SSベルト部分のモリブデン含有量は0.0775%にとどまり、904L系の高耐食ステンレスとはほど遠い数値でした。
さらに金色ベルト部分の金含有量はわずか0.693%。
本物のK18であれば金は75%を占めるはずですが、これだけ少ないということは、表面に薄く金メッキを施しただけのベルトであったことを意味します。
外観上はコンビモデルに見えても、X線分析を行うことで「粗悪ステンレス+金メッキ」という素材の実態が、数値として明らかになりました。
このように、時計の真贋鑑定においても、X線分析装置は素材面から強力な手がかりを提供してくれます。
X線分析は鑑定の一要素|限界と総合判断
時計の本物・偽物の判定は、複数の要素を組み合わせた総合的な判断が基本です。
見た目、刻印、シリアル番号、機械、針の動き、文字盤の細かい部分、ケースの素材、ブレスレットのつくりなどを一つひとつ確認していくことで、判定の精度が高まります。
ただし、X線分析で確認できるのは、おもに測定した表面部分の元素組成です。
メッキやコーティング、測定する箇所によって結果が変わることもあるため、素材分析だけで真贋を断定するものではありません。
素材分析は、その確認の要素の一つとして、客観的なデータを提供する役割を果たします。
相続で受け取った高級時計や、購入を検討されている中古時計の素材で気になる点があれば、にじや質店X線ラボのLINEでお気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

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現役質屋の鑑定士で、非破壊検査(X線分析・導電率・超音波等)を用いた
貴金属・宝石の真贋鑑定および分析の専門家。
「見た目では分からない本質を、科学の目で見抜く」を信条に、
金インゴット・宝飾品・時計などの鑑定と分析を日々の業務として取り組む。
東京都青梅市在住
株式会社クリエイティブファクトリー 代表取締役
■保有資格
・第1級陸上無線技術士
・電気主任技術者
・電気通信主任技術者
■経歴
1991年 株式会社リクルート入社
1994年 都内特許事務所にて特許出願業務に従事
1998年 創業、真空管輸入販売事業を開始
2000年 法人化
2013年 株式会社クリエイティブファクトリー設立
2014年 総合買取事業開始
2022年 にじや質店 竣工
2025年 にじや質店X線ラボ サービス開始
2026年 にじや相続評価 サービス開始
■専門分野
・金インゴットの真贋判定
・貴金属の非破壊分析
・宝石・時計の評価
・偽物・メッキ判別
・真空管
■運営サイト
・にじや質店
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・にじや質店X線ラボ
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