たとえば、K18やK14と刻印された金製品をX線分析した際、場所によって刻印相当の数値が出たり、それより低い数値が出たりすることがあります。

K18なら金75%、K14なら金およそ58.5%のはず。数値が合わないということは、模倣品なのか…。

結論から言うと、金を主体とする製品でも、ロウ付け部分や交換された部品など、測定する場所によっては刻印相当より低い数値が出ることがあります。

指輪のサイズ直し、チェーンの修理、留め具の交換、メッキ下地の露出など、品物の履歴や構造によって、場所ごとに成分が異なるケースは珍しくありません。

この記事では、X線分析の現場で実際に遭遇する「数値のばらつき」の原因と、それをどう読み解くかをお伝えします。

X線分析は「測った場所」の成分を返す

蛍光X線分析は、X線を当てた箇所の表層成分を元素ごとのパーセンテージで返す分析方法です。

品物全体の平均値を出すわけではありません。

つまり、同じ指輪でも測る場所が変われば、出てくる数値も変わる可能性があります。

金75%の部分を測ればK18相当の数値が出ますし、金約58.5%の部分ならK14相当の数値が出ます。金以外の金属が多い部分を測れば、金の含有率は低く出ます。

このような数値の違いは、装置の故障や単純な誤差だけでなく、品物の構造や表面状態、測定位置などによって生じることがあります。

貴金属製品は接合部や表面処理などによって場所ごとの状態が異なるため、測定位置を適切に選び、必要に応じて複数箇所の結果を比較することが重要です。

「数値が低い=模倣品」とは限らない。この前提を知っておくことが大切です。

金の品位とロウ付けの基本

K18は、金の品位を24分率で表したもので、金75%・残り25%が銀や銅などの合金です。

K14であれば金の割合はおよそ58.5%で、造幣局の品位区分では「585」に対応します。このように金製品は、K18・K14といった品位ごとに金と他の金属の配合が決まっています。

造幣局の品位区分では「750」がK18に対応しています。

ただし、製品に打たれた「K18」や「K14」はメーカー刻印であり、造幣局が品位を証明したホールマークとは意味が異なります。

ジュエリーの製造や修理では、金属同士を接合するために「ロウ付け」が行われます。

本体よりも低い温度で溶けるロウ材を接合部に流し込み、金属同士をつなぐ方法です。

本体そのものを溶かさずに接合するため、指輪やチェーン、石座などの製作・修理に広く使われています。

このロウ材には、接合しやすい融点や流動性を持たせるため、本体とは異なる配合の金属が使われることがあります。

そのため、指輪本体の中央部では刻印相当の数値が出ていても、接合部分の近くでは金の割合が下がったり、銀・銅・亜鉛などが多く検出されたりする可能性があります。

ただし、すべてのロウ材が本体より低い品位とは限りません。

本体と同じ品位を維持したロウ材も存在するため、「接合部=必ず純度が低い」とは言い切れません。

接合部の測定値だけから、使用されたロウ材の種類や修理内容まで断定することはできません。

(参考情報・出典)造幣局「貴金属製品の品位区分と証明記号」 

【実例】K14リングの本体とロウ付け部分を比較する

ここで、当ラボで実際に測定した事例を紹介します。

あるK14の指輪を分析したところ、リング本体の部分と、ロウ付けされた接合部分とで、金(Au)の数値に明確な差が出ました。

まずは、どこを測定したのかをご覧ください。

▲ 同じ指輪の「リング本体部分」と「ロウ付け部分」。それぞれをX線分析箇所として測定しました。

リング本体部分を測定した結果がこちらです。

▲ リング本体部分の分析結果。金(Au)は59.90%で、K14相当の数値が得られています。

次に、ロウ付け部分を測定した結果がこちらです。

▲ ロウ付け部分の分析結果。金(Au)は50.48%で、本体部分より約10%低い数値でした。

同じ一つの指輪でありながら、本体部分ではK14相当の金の割合が確認できた一方、ロウ付け部分では金の割合がおよそ10%低く測定されました。

もし、このロウ付け部分だけを測っていたら、「金の含有率が低い」「刻印どおりの品位ではないのでは」と早合点してしまう可能性があります。

しかし、本体部分とロウ付け部分を比較して測定することで、この差はロウ材の配合による影響と考えられる、と読み解くことができます。

ネックレスの場合も同様です。

チェーン本体と引き輪、プレートをそれぞれ測定すると、修理や部品交換の影響で、場所ごとに異なる分析結果になることがあります。

当ラボでは、一つの測定結果だけで判断せず、必要に応じて複数箇所を測定し、それぞれの結果を比較しながら総合的に確認しています。

サイズ直しや修理跡が測定値に表れる場合

長く使われてきた指輪には、過去にサイズ直しが行われていることがあります。

指輪の一部を切断し、地金を足したり取り除いたりして輪の大きさを調整するため、修理部分には元の指輪とは別の時期に用意された地金やロウ材が使われます。

修理時には色や品位の近い材料が選ばれるのが一般的ですが、製造年代や配合まで完全に同一とは限りません。

ネックレスでも、壊れた引き輪やプレートだけを後から交換しているケースがあります。

チェーン本体がK18でも、修理された留め具がK14などの別素材であれば、測る場所によって異なる結果が出ます。

引き輪の内部には、強度や弾性を確保するため、貴金属とは異なる素材のバネが使われることがあります。

ただし、X線分析は基本的に表層を測るため、内部のバネが常に測定結果に表れるわけではありません。

バネが見える開口部付近を測った場合や、照射範囲に異素材部分が含まれた場合には、本体とは異なる成分が検出される可能性があります。

こうした違いは、必ずしも意図的な偽装によるものではありません。

家族から受け継いだジュエリーや中古品の場合、現在の所有者が修理歴や部品交換の事実を知らないことも珍しくありません。

メッキや表面の状態も測定値に影響する

X線分析は表層成分を読む方法のため、表面にメッキやコーティングが施されている場合、その成分が測定結果に反映されます。

たとえば、K18ホワイトゴールドには、白さや光沢を整える目的でロジウムメッキが施されていることがあります。

ロジウムメッキが摩耗した部分とメッキが残っている部分では、ロジウムの検出量に差が出る可能性があります。

一方、銅や真鍮などに金メッキを施した製品では、メッキが薄くなった部分や剥がれた部分を測ると、下地金属の影響が強く表れることがあります。

同じ品物の中に「メッキが残っている箇所」と「下地が露出している箇所」があれば、測る場所によってまったく異なる数値が出ます。

長年使い込まれたジュエリーでは、汚れや酸化皮膜が蓄積していることもあります。

表面に厚い汚れや腐食生成物などが付着していると、地金だけでなく表面付着物の成分も測定結果に反映され、素材本来の組成を判断しにくくなることがあります。

したがって、一度の測定結果だけを見て「刻印の基準より低いから模倣品」と結論づけるのは早計です。

複数箇所を測ることで品物の全体像が見えてくる

測定箇所による違いを見分けるには、品物の形状や構造を確認したうえで、複数箇所を測定して結果を比較します。

指輪であれば、本体の中央部、サイズ直しの跡が疑われる部分、石座や接合部などが候補になります。

ネックレスであれば、チェーン本体、引き輪、プレートなどを分けて確認します。

本体の複数箇所からおおむね刻印相当の結果が出ており、接合部付近だけ異なる数値が出るのであれば、ロウ材や修理部分の影響が考えられます。

一方、チェーン本体の複数箇所から金がほとんど検出されず、刻印のある留め具だけが刻印相当だった場合は、異素材パーツの組み合わせや偽装品の可能性も含めて慎重に判断する必要があります。

大切なのは、分析装置が表示した一つの数字だけを見るのではなく、測定箇所ごとの結果にどのような整合性があるかを確認することです。

では、測定値に差が出たとき、追加でどこを測るかはどのように決めているのでしょうか。まずは品物全体をよく観察したうえで判断しています。

具体的には、次のような点を確認します。

  • ロウ付けや接合の跡がないか
  • サイズ直しの痕跡がないか
  • 色味に違いがないか
  • 刻印の位置
  • 石座や引き輪、プレートなど部品ごとの構造
  • メッキの摩耗や変色、傷の有無

こうした点を確認したうえで、本体部分だけでなく接合部や部品ごとに複数箇所を測定し、それぞれの結果に整合性があるかを見ています。

蛍光X線分析は照射した箇所の成分を分析するため、「どこを測ったか」がとても重要です。数値だけでなく、測定位置と品物の構造をあわせて評価することを大切にしています。

数値を読み解くのは装置ではなく鑑定士

X線分析装置は、照射した箇所から得られた元素組成のデータを表示します。

しかし、そのデータが「ロウ付け部分だから低い」のか「メッキが剥がれているから低い」のか「模倣品だから低い」のかを判断するのは、装置ではなく鑑定士の仕事です。

  • 品物を手に取って構造を確認する。
  • 実体顕微鏡でロウ付け痕や修理跡を探す。
  • 刻印の位置と測定箇所の関係を考える。
  • 怪しい部分と問題なさそうな部分を測り分ける。

こうした判断を積み重ねて初めて、数値に意味が生まれます。

装置に品物を入れれば自動的に答えが出るわけではありません。

どの箇所を測るか、異なる数値をどう解釈するかという判断には、ジュエリーの構造や貴金属の加工方法に関する知識が必要です。

当ラボでは、装置が示す数値だけでなく、品物の構造や測定箇所との関係も踏まえて結果を確認しています。

ご利用方法

にじや質店X線ラボでは、品物の形状や構造を確認し、必要な測定箇所をご案内しています。

全国対応・郵送完結。X線分析は1箇所1,100円(税込)から。

刻印画像や鑑定士コメントなどを含むプレミアム分析もご用意しています。

  • 「K18やK14のはずなのに測定結果が一定しないと言われた」
  • 「他店で一部分だけを測られ、刻印どおりの品位ではないと言われた」
  • 「形見の指輪の素材を正確に確認したい」

このような場合は、まずLINEから品物の写真、刻印の有無、修理歴の有無、気になっている点をお送りください。

どこを測定すべきかを含めてご案内いたします。詳細・お申込みは下記からご確認ください。

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投稿者プロフィール

代表鑑定士 佐々木 英明
代表鑑定士 佐々木 英明
現役質屋の鑑定士で、非破壊検査(X線分析・導電率・超音波等)を用いた
貴金属・宝石の真贋鑑定および分析の専門家。

「見た目では分からない本質を、科学の目で見抜く」を信条に、
金インゴット・宝飾品・時計などの鑑定と分析を日々の業務として取り組む。

東京都青梅市在住
株式会社クリエイティブファクトリー 代表取締役

■保有資格
・第1級陸上無線技術士
・電気主任技術者
・電気通信主任技術者

■経歴
1991年 株式会社リクルート入社
1994年 都内特許事務所にて特許出願業務に従事
1998年 創業、真空管輸入販売事業を開始
2000年 法人化
2013年 株式会社クリエイティブファクトリー設立
2014年 総合買取事業開始
2022年 にじや質店 竣工
2025年 にじや質店X線ラボ サービス開始
2026年 にじや相続評価 サービス開始

■専門分野
・金インゴットの真贋判定
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