「発注した金パラと、納品された銀歯の色味が違う気がする」
ある歯科医院の先生から、そんなご相談をいただいたことがあります。

歯科技工所へ金銀パラジウム合金(通称・金パラ)による銀歯の製作を依頼したところ、納品された品物がいつもより黒ずんだ色合いをしていた、というものでした。
指定した材料で間違いなく製作されているのか、先生は疑問を持たれました。
見た目の違和感だけでは、材料が本当に変わったのかどうかを判断することはできません。
そこで私どもにじや質店X線ラボへ分析のご依頼をいただき、蛍光X線分析(EDX)により、主要元素の組成を確認することになりました。
金パラとは何か、なぜ組成が重要なのか
金パラ(金銀パラジウム合金)は、正式には「歯科鋳造用12%金銀パラジウム合金」と呼ばれる、保険診療で広く使われている歯科用金属です。

日本産業規格(JIS T 6106)により、金12%以上、パラジウム20%以上、銀40%以上を含むことが定められており、残りは主に銅やインジウムなどの微量成分で構成されるのが一般的です。
この規格は、どのメーカーの製品であっても金とパラジウムの含有率が一定の基準を満たすよう定めたものです。
逆にいえば、この基準から外れた組成の製品が流通していた場合、それは何らかの理由で材料が変わっている可能性を示すサインになります。
(参考情報・出典)
JIS T 6106:2011「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」
なぜ「サイレントチェンジ」が起こりうるのか
ここでいう「サイレントチェンジ」とは、発注側が明確に認識しないまま、材料の仕様や成分バランスが変わっている可能性を指す便宜的な表現です。
特定のメーカーや技工所が不適切な対応をしていると断定するものではありません。
歯科用金属を取り巻く環境では、金やパラジウムなどの貴金属相場が大きく変動します。
特にパラジウムは価格変動が激しい金属であり、材料メーカーや流通業者にとってもコスト管理が難しい素材です。
そのような背景の中で、製品仕様の変更、仕入れ先の変更、代替材料の検討などが行われることは十分に考えられます。
通常であれば、仕様変更は適切に通知されるべきものです。
しかし、発注側・製作側・納品側の間で情報共有が十分でない場合、現場では「いつもの金パラのはずなのに、何か違う」という形で違和感が表面化することがあります。
この違和感を感覚のまま放置するのではなく、客観的な成分データで確認することが、トラブル予防や品質管理につながります。

見た目だけでは材料の判定ができない理由
金銀パラジウム合金は、配合の違いによって色味や光沢に微妙な差が出ることがあります。
銀が多ければ白っぽく見え、銅の影響でわずかに赤みを帯びることもあります。
研磨状態や鋳造条件、表面の酸化、使用環境によっても見え方は変わります。
しかし、色味の違いはあくまで「違和感のきっかけ」に過ぎません。
それだけでパラジウムが20%以上含まれているか、金が12%以上含まれているかを判断することはできません。
また、同じ金パラでも、製品ごとに成分の表示値や設計思想が異なる場合があります。
見た目が似ているから同じ材料とは限らず、反対に見た目が少し違うからといって、直ちに不適切な材料だとも言い切れません。
必要なのは、目視による印象と、機器分析による数値データを分けて考えることです。
実際の分析事例
今回ご依頼いただいた試料を蛍光X線分析(EDX)にかけたところ、以下の組成が確認されました。

蛍光X線分析(EDX)による成分分析結果
銀(Ag)49.11%、銅(Cu)19.59%、パラジウム(Pd)16.57%、金(Au)13.52%。

金の含有率は13.52%で、JIS規格の基準である12%以上は満たしていました。
一方、パラジウムの含有率は16.57%で、規格が定める20%以上を下回る結果となりました。

銀・銅についてはおおむね規格内の水準です。
見た目の違和感から始まったご相談でしたが、実際に数値として確認したことで、パラジウムの含有率に規格との差があるという客観的な事実が明らかになりました。
この結果を依頼者様にそのままお伝えし、今後の材料選定や技工所とのやり取りの判断材料としてご活用いただいています。
蛍光X線分析(EDX)でわかること、わからないこと

蛍光X線分析は、品物を削ったり溶かしたりすることなく、表面付近に含まれる主要元素の含有率を数値で確認できる方法です。
今回のケースのように、金・銀・パラジウム・銅といった主要元素の組成を客観的なデータとして示すことができます。
ただし、正直にお伝えしなければならない点もあります。
EDXで分かるのは、あくまで分析した部分の元素組成です。
合金全体の均一性や、鋳造時の内部構造、生体適合性そのものを保証するものではありません。
また、JIS規格への適合・不適合を法的に判定する分析ではなく、あくまで組成を客観的な数値として示すものである、という位置づけになります。
そのため、分析結果は「規格に照らした参考データ」としてご活用いただき、最終的な判断は依頼者様ご自身、あるいはメーカーや関係機関への確認とあわせて行っていただくことをおすすめしています。
歯科医院・技工所・品質管理部門での活用シーン
今回のような色味の違和感をきっかけとした確認のほか、価格改定や仕入れ先の変更があったタイミングでの抜き取り確認、複数の技工所から納品される製品の品質管理といった場面でも、X線分析はご活用いただけます。
品物を破壊せずに確認できるため、患者さんに提供する前の製品でも、その他の完成品でも分析が可能です。
分析結果は書面でのご報告もできますので、院内やクリニック間での記録としても残していただけます。
まずはお気軽にご相談ください
材料の色味や質感に違和感がある、価格改定のタイミングで念のため確認しておきたい、といったご相談を歯科医院様・歯科技工所様から承っております。
にじや質店X線ラボでは、大切な品物を傷つけることなく、客観的な成分データをご提供いたします。
医療機関、歯科医院、歯科技工所、品質管理部門からのご相談も承っております。
まずはLINEより、確認したい品物の内容やご相談の背景をお知らせください。
投稿者プロフィール

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現役質屋の鑑定士で、非破壊検査(X線分析・導電率・超音波等)を用いた
貴金属・宝石の真贋鑑定および分析の専門家。
「見た目では分からない本質を、科学の目で見抜く」を信条に、
金インゴット・宝飾品・時計などの鑑定と分析を日々の業務として取り組む。
東京都青梅市在住
株式会社クリエイティブファクトリー 代表取締役
■保有資格
・第1級陸上無線技術士
・電気主任技術者
・電気通信主任技術者
■経歴
1991年 株式会社リクルート入社
1994年 都内特許事務所にて特許出願業務に従事
1998年 創業、真空管輸入販売事業を開始
2000年 法人化
2013年 株式会社クリエイティブファクトリー設立
2014年 総合買取事業開始
2022年 にじや質店 竣工
2025年 にじや質店X線ラボ サービス開始
2026年 にじや相続評価 サービス開始
■専門分野
・金インゴットの真贋判定
・貴金属の非破壊分析
・宝石・時計の評価
・偽物・メッキ判別
・真空管
■運営サイト
・にじや質店
https://nijiya-7ten.jp
・にじや質店X線ラボ
https://nijiya-xray.jp
・にじや相続評価
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・ヴィンテージサウンド
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